『お父さんの石けん箱』

『お父さんの石けん箱』

2023年01月21日 08:47

山口組三代目・田岡一雄さんのお嬢さんによるエッセー、『お父さんの石けん箱』田岡由伎・著、を読みました。

お父さんが組長という極めて特殊な家庭環境ではあるけれども、とっても温かな家族像が浮かび上がってきます。思わず笑ってしまうようなエピソードもあり、親分として世界的にも有名だった田岡さんという人は、人間的な魅力に溢れていたのだなぁ、と感じ入りました。

また、田岡さんは社会からすれば極悪人なのかもしれないですが、本来真っ当な人間であるべき人(政治家)が極悪で、この田岡さんがまともな判断をする出来事もあったりして、人の善悪って、最終的には本人の良心とか哲学とか、そういったものに依拠していて、周りからのジャッジよりもむしろ本人がどのように生きるかが大事だ、と思いました。

この、本人と周囲とが、ここまで乖離する人も珍しいかもしれません。有名であるがゆえに評判が一人歩きして、人物像が勝手に作られていくところは滑稽です。人って勝手に解釈して勝手に思い込むものだから、そうなってしまうよね〜と思うのでした。

この本で、私が驚いた場面を抜粋します。

「なぁ、ゆきちゃん」「はい?」。父の顔を見ると、目を天井に向けじっと一点をまっすぐ見ている。「わしは、引退するのがこわいんやなァ・・・。なんかわからん “力” が無くなるのが不安なんや。もし、誰もわしの言うことを聞かんようになったら、わしは、死んだようなもんやな」。自分自身に語るように、父は話す。・・・・途中、略・・・「わしは、力を無くすんが力を無くすんが、恐ろしいんやなァ・・・・」

大親分の独り言。きっと、こういうことは娘の由伎さんにしか言えなかったことでしょう。だって、こんなこと口にしたら「親分、そんなこと言わないでください!(涙)」とすがられたり、ここぞとばかり狙われたりするかもしれないですからね。

組長は自分のパターンや恐怖を認めていた。

こういう人だったから多くの心弱い人たちの居場所であれたのかもしれない。その人たちの父親的存在であれたのかもしれない。田岡さんの人間的魅力を垣間見ました。