エピソード
自分が通っていた大学で、遠藤周作氏による講演会が1年に1度、開かれていました。噺家のような、ちょっととぼけた表情で可笑しいことを言うので、たぶん、学生の間でも人気が高かったのだろうと思います。私も好きでした。お話し下さった中で、私が印象に残っているエピソードが2つあります。
1つ目。
ある病院に、遠藤さんが取材に行った帰りの玄関で、ある看護士が患者さんの、ただれた手を触れたそうなのですが、それが「私は、こんなに重い病気の人の、こんなに汚らしい皮膚を触ることができるんですよ、遠藤さん・・」と、見せているようだったという話。
2つ目。
試験問題に自分の作品が取り上げられたとき、その設問「このとき主人公はどう思っていたのでしょう。」に対する四択の答えが、どれも正解に思えて、問題の制作者が用意した正解に同意はしたものの、困ってしまったこと。
1つ目の話では、こういった深い洞察を当時の私は知らなかったので、見破られそうで怖いな、嘘はつけないな、正直でいよう、と思いました。2つ目の話では、何が正解かって、わからないんだな〜と、"正解" について考えさせられました。
遠藤さんの講演会は、大人が体験から語る話として、印象に残っているように思います。特に1つ目のようなことは、自己顕示欲や偽善、良い人でありたいという思い(パターン)によって、無意識にやりかねないし、やっています。そういうことに気付かせてくれました。
遠藤さんは、あのとぼけた表情からは想像がつかない、鋭いまなざしで、人間の心を一つひとつ丁寧に洞察されていたのだろうと思います。姿を思い出すと胸の辺りがほっこりします。
▼自分と向き合うセッションを行っています。